「あ、今日満月か…。」
仕事から帰った俺は、カーテンを閉めようとして気がついた。
昼間に車で流していたラジオ番組で「日本酒の水面に満月を映して飲むと、何かしら風水的に良い」だとか、「財布を月に向かってかざすのもこれまた良い」だとか言っていたのを思い出したのだ。
せっかくの金曜の夜。
どうせならと適当なアテを用意してベランダで飲むことにした。
結婚式の引き出物でもらった普段使わないグラス製のお猪口に日本酒を注ぎ、月を捕まえようと右へ左へと動いていると、突然、俺の真横の壁からニョキッと人の腕が伸びた。
「ひぃ！」と小さく叫んでのけぞると、白い腕が引っ込み、お隣のゆずなさんが首を伸ばしてのぞき込んできた。
「驚かせてすみません！」と謝るゆずなさんの手には財布があり、俺の手の中には満月が映るお猪口があった。
一瞬の間の後、2人で顔を見合わせ「ラジオ！！」とハモり、しばらくの間笑い転げた。
「ホントは日本酒も飲みたかったけど、引っ越したばかりで何もなくて…」という彼女に、俺は初めて使うペアの引き出物に日本酒を注いで、避難扉越しにそっと手渡した。
その時、両手で大事に満月を受け取り嬉しそうに御礼を言うゆずなさんは、とてもとても可愛らしかった。



ラジオネーム まぐろフレーク さんの作品

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次回の２ワードは「忘れ物」「テレビ塔」です。第3話お待ちしています。
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